自社回収は担当者の精神的負担が大きい
今回は対談形式ではなく、下元が一人で「自社回収の限界」というテーマでお話します。通販会社などの担当者の方は、僕らに債権回収の仕事を依頼しながら、ご自分でも債権回収業務をされているケースが多いんですね。最初の請求で未払いだった人に対して請求を行っている部署があって、その部署の方が、途中からうちの事務所に依頼してくださるという形です。担当の方を見ていて、やっぱり大変な仕事なんだろうなと思います。僕らは弁護士ですから、払ってくれない人を相手に話をしたりというのも普通の仕事の一環で抵抗なくできますが、普通の会社員の方、いままで代金を払ってくれないような人と接することのなかった方が、違う部署から配属されてその部署に担当という形でやってらっしゃると、大変だと思うんです。
一番しんどいのは、精神的な負担でしょうね。むちゃくちゃなこと言う人や、払わないかんと思っていたとしても何とか逃れようとする人も多いですから、そういう人らと話すのは、精神的にかなり負担が重い仕事じゃないかなと思います。
電話で「今から行くぞ」とか、おどしみたいなことを言ってくる人もいます。そうでなくても、長々と愚痴を聞かされたり。そういう人たちをずっと相手にして、支払ってくださいとお願いをしていくというのは大変ですよね。しかも、それだけ苦労して、じゃあ自社回収で成果が上がってるかというと、実際それほど上がってないのが現状だと思うんですね。手紙を何度も出されたり、電話をかけられたり、そうやって時間や人件費をかけても、全く効き目がない人もいますから。そもそも相手はみんな、その会社からの請求書を見ても払わなかった人たちです。そういう人が別の請求書が届いたからといってじゃあ払うのか。電話がかかってきたら払う人もいるでしょうし、うっかりしてたという人もいるでしょうけど、それでも払わない人というのがたくさん含まれてると思うんです。精神的につらい仕事であることに加えて、なかなか成果があがらないとなると、つらいですよね。
みなさん、いろいろ工夫されてらっしゃって、土日に電話をかけたり、仕事が終わった時間帯を見計らってかけたりもされてらっしゃるんですけど、結局それも、普通の人が仕事をしてないような時間まで働くことになるので。そういったことも負担の原因になっているという話はよく聞きます。
それでも外部に委託できない事情とは?
債権回収の部署の規模は、もちろん会社の規模で変わってきますが、僕が思っていたよりも、会社の規模に対して、未収金の回収をされてらっしゃる人の数は多くないです。思ったより少ない人数で回されているので、お一人お一人にかかる負担は相当大きいんじゃないかなと思いますね。そういう状況でやってきて、会社が大きくなった、売り上げが伸びて未集金も増えてきた、担当者の方々がパンク寸前になっているということで、うちにご依頼いただくケースも多いですね。
パンク寸前まで外部委託されない理由のひとつは、そもそも弁護士事務所やサービサーなど、頼めるところの存在が知られていないということやと思います。弁護士に頼むのはもう少し大きな問題、例えば契約の解釈が問題になるような話だとか、そういう業務を頼むものであって、数千円単位の債権回収を弁護士に頼むという発想がなかったと言われることも多いです。そういう会社さんでも、顧問弁護士さんはいらっしゃったりするんです。クレーマーみたいなきつい債務者との対応に関しては依頼したりというのはあるんですけれども、未集金の回収を顧問弁護士さんのところでさっと引き受けてもらえるかというと、事務所の体制であったり、その先生のお考えであったりとかで、受けてもらえないと。ほかには、頼めることは知っていても、コストを気にされているケースもあると思います。
さらに、情報管理についても、みなさん気にされています。会社のお客様の情報ですし、支払ってもらえないというのもセンシティブな情報なので。あとは会社のイメージですね。多くの会社さんが、自社の担当者なら会社のイメージを大事にするだろう、だから自社の担当者に委ねるのがいいだろうというお考えで自社回収を選択してらっしゃると思うんです。ただ、実際はなかなか難しい問題で、会社のために何をすべきかというところで、その担当者の方の使命としては、より多くの回収を図るべきなんですよね。そこでたくさん回収をしようと思うと、支払ってもらえていない人に対して厳しい口調になってしまってトラブルになったり、インターネットに書き込まれてイメージダウンになったりするということもあるので、実は会社の方が思ってるほどイメージダウンを防止する効果というのは、自社回収にはないんじゃないかと僕は思っています。
「弁護士から請求すること」の効果
僕らは弁護士という資格の中で請求をしてますので、弁護士からの手紙が着いた時点で、相手に支払わなくてはいけないと思わせる効果があるんですね。ですから、電話ではそれほど厳しいことは言いません。僕らがどんな風に電話をしているか、たまに依頼者の方にお話ししますと、そんなに優しく言ってるんですかと驚かれるくらいです。厳しい言葉を投げかければ相手が反省して払ってくれるのかというと、実はそうではなくて、もう少し別のところに訴えかけるほうが効果的だったりしますので。
その点、自社回収の場合は難しいと思います。優しく言うと払ってもらえなかったり、効果が薄かったりもしますので。代金を支払っていない人というのは、性格的にルーズだったりという方も多いので、優しくすると甘えてしまって、ずるずると払わなくなる可能性があります。それでも僕らは厳しくするほうがいいとは思いませんが、かといって、じゃあ自社の担当の方が、僕らのような優しい言い方で回収ができるのかというと、難しい。やっぱり「弁護士からの手紙」「弁護士からの電話」というところで効果を上げているのかなと思います。僕らとしては、厳しい言葉で言うことよりも、支払い義務があると理解していただくことが重要だと思っていますが、それを効果的に伝えるのは、自社では難しいのではと思いますね。
あとは、よくあるのが、「どこまで言っていいかわからない」というご相談です。法に触れてしまう、たとえば「おどし」になったりしたら困るというお話ですね。請求して、払ってくださいと伝えるために、じゃあこういう言葉は使っていいのかと、僕ら弁護士は、経験の中で法律的なことも把握していますが、専門家でなければわからないですよね。それで恐る恐る、どこまで言っていいか迷いながら対応を続けているということが、精神的なストレスにもつながっていくでしょうし、効果もなかなか上がらない原因だろうと思います。
乗り換えのハードルは、実は高くない
ただ、やっぱり会社としては、弁護士なりサービサーなりに依頼するとコストがかかるという懸念があると思うんです。それに、新しいことをするのはハードルが高いですよね。回収率が上がって会社にとって良くなるんだとわかっていても、積極的に会社の中で稟議を上げていくのは手間もかかりますし、本当に信用できる弁護士なのか、情報の管理体制はどうなっているのか、そういったものをチェックする必要もある。さらに、毎月発生する債権をどういうふうに扱っていくのかとかという問題もありますよね。そういう手間を考えると、最初は躊躇されると思います。ただ、いつも僕言うんですけれども、委託した後は、やはり弁護士に頼むことで負担が軽減される面は非常に大きいと自信を持って言えます。毎月の委託も、最初の段取りさえつけたら、あとは毎月の作業になっていきますので。実際に、負担が減ったと喜ばれている担当者さんは多いです。
たとえばネット通販などは、全く顔も見ない、電話もしないですから、未集金は発生しやすいです。請求書をそもそも見ていない、郵便物がどんどんたまっているという人も多いと思います。債務者の方にも事情があって、お買い物された後で病気になってしまったとか、そういう方もいらっしゃいますよね。ほかにも、引っ越しをされたりとかして手紙が届かなくなった方とか、そういう方がたくさんいらっしゃることも考えると、やはり自社回収では限界があります。弁護士なら、住民票から行方不明者の調査もできますから。やはり、どこかで弁護士に依頼するという形で進めていかれたほうがいいと思います。自社回収で限界を感じている方は、ぜひご相談ください。